第五話

その衝突が起こってから約20分後、この近所に住む中年の女性がこの道路を通り、涼子を見つけた。
「…、この子、リョウちゃんじゃない!」
普段涼子の家の近くに住んでたその女性は、急いで救急車を呼んだ。涼子の体は既にかなり冷たくなっていて、顔もひどく青ざめていた。5分後救急車が到着、涼子はすぐさま近くの総合病院へ運ばれた。救急車の中で、救急隊員は機敏に細かく涼子の状態をチェックしていく。同乗した女性が必死に涼子の状態について隊員に問い掛けるが、救急隊員は「一刻を争いますから後にして下さい」の一点張りだった。
その女性に電話で連絡された涼子の家族も30分後病院に着いた。既に集中治療室に収容されていた涼子をガラス越しに見た後、涼子の父、母、弟は担当医の話を聞きに彼の部屋に向かった。涼子の母は既に目に涙を浮かべていた。
「それで、涼子の状態はどうなんでしょうか?あぶないんですか?」
「お母さん、隠さずに申し上げますと、…大変危険な状態と言わねばなりません。もっと早く涼子さんを誰かが発見して下さったらよかったんですけどねぇ、どうやら体の傷や、道路のタイヤの跡から見て、バイクにひき逃げされてしまったらしいんですよ。暫く放置されてしまったので、涼子さんはかなり衰弱してしまっています。出血も外傷も殆どないのですが、さっき機械で脳の中を調べた結果、写真にちょっと変な影が写っているのを発見しました。今急いでその影が何なのか調べているところなのですが…、はっきり申しますと、彼女の今の状態から見て、今晩が彼女にとって“山”です」
それを聞いて涼子の母は泣き崩れた。弟も目の周りを真っ赤にして悲しみにじっと耐えているようだったが、涼子の父は悲しい目をしながらも、担当医の言った言葉を一つ一つ冷静に聞き入れていた。

その時、ナースが慌てて担当医の部屋に入ってきた。
「先生!今、北村涼子さんの状態が大変危険です。早く来て下さい」

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