第四話

涼子と衝突してしまったバイクと運転手は、衝突して倒れてしまった後も止まらず火花を飛ばしながら道路をずっと横滑りし続けた。やがてバイクの本体は失速しガードレールにぶつかって止まったが、運転手はその反動で更に5メートル勢いよく転がり続けた。
運転手は5分程激痛のために身動きが取れなかったが、幸運にも軽度の打撲ぐらいで済んでいるらしいことに気づいた。うつ伏せになって倒れていた自分の体を用心深く、少しずつ確認しながら動かしてみた。
「(あ、なんだ動けるじゃないか。骨も折れてないみたいだ。…あ、でも…俺と衝突したあの女子高生は…?)」
彼の脳裏には衝突の瞬間のシーンがフラッシュバックされる。彼は自分のことで精一杯だったが、ちゃんと自分とぶつかった女子高生が思いっきり宙に飛ばされていたのも見えていた。 「(やべぇ、俺、人殺しちゃったかもしれねえ…。どうしよう?バイクと人だったら、人の方がめちゃくちゃヤバイじゃん…)」
彼は、まだ全身ぎしぎしと痛む体をなんとか起こし、よたよたと、そしてひどく不安になりながら涼子の方に近づき始めた。彼はひどく震えていた。涼子は彼と15メートルくらい離れたガードレールのすぐ傍にあお向けになって倒れていた。彼は涼子のすぐ近くまで来て、彼女をまじまじと観察する。暗くなり始めててよく分からなかったが、あまり大きな外傷や出血はないみたいだった。彼女は寝ているように目と口を閉じていて、口からはひとすじの血が流れ出て顔の横側に赤い線を描いていた。運転手は自分のグローブと取って恐る恐る彼女のだらんとした手首をとり、脈を測った。ひどく遅い、今にも途切れそうな脈だった。触った手の体温もひどくつめたくなっていた。彼の背中に一瞬にして悪寒が走り、頭がパニックし始めていた。
「(やばい、やばい、やばい、やばい、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…)」
彼はまだ涼子が助かるかもしれないという可能性について何も考えなかったのだろうか?ただ、この現場にこれ以上残っていたら危険だ、という考えが彼の脳を占領した。彼は彼女のところから立ち去って一目散に自分のバイクのところに彼が今出せるだけの力を振り絞って走った。急いでバイクのエンジンをかける。変な音がするがまだバイクは動くようだ。それでそのまま立ち去るかと思いきや、彼はバイクで再び涼子に慌てて近づいた。彼女を助けようと思ってくれたのだろうか?・・・否、彼は脈を測った時の自分の指紋を取られたら危険だと思い、ふき取りに来ただけだった。持ってたボロキレで必死に彼女の手首を擦った。
それから彼は一目散にバイクに飛び乗り、すぐさまその現場から立ち去ってしまった。人手の少ないこの道路、涼子は次の通行人が通るまで20分間もその場に放置されてしまった。彼女の体は更に冷たくなっていた。

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