第八話

涼子の質問に、先生はなんとか答えた。
「そうです、北村さん…ここは病院です。あなたは事故に遭ったんです。覚えていますか?バイクと衝突したんですよ?」
涼子はその言葉に多少動揺し、体を少し起こしたが、反射的に動いたナースにまたベットに押さえつけられた。口を閉じたまま少し考える涼子。そしてようやく、涼子は事故に遭った時のことを思い出し始めた。
(そうだ、家に帰る途中の十字路で、急にバイクの光が見えて…それから私は…?)
どうも、完全に思い出せない。記憶にある目の前の光景も、かなり途切れ途切れだ。でも、目の前が真っ暗になる前に北極星を見たことはなんとなく覚えていた。
そんなふうに事故のことを必死に思い出そうとしている涼子を見て、先生は未だにかなり動揺していた。まだ目の前で起こっていることが把握できない。涼子の方を見つつも、また横目で生態情報モニターを確認する…まだ心拍数のラインは平らのままだ!機械が壊れているのか、それとも…。その時、また涼子が話し始めた。
「先生…なんとなく事故のことは覚えているんです。途切れ途切れなんですけど…。ただ、あんまり実感がないんですよね。私って運が良かったんですか?衝突したにしては、どこも今痛くないんです。ラッキーだったのかな?打ち所が悪いの反対で、打ち所がいいっていうか…ははは」
それを聞いて、先生はまた動揺してしまった。
(打ち所がいい?どこも痛くない?…ばかな!このコは今死ぬところだったんだぞ?痛くないわけないだろう!わき腹に、痛々しい大きな内出血の痕があったはずだ。…そうだ、体の状態を調べなければ)
「じゃあ、北村さん、ちょっと悪いんだけど、右のわき腹を先生に見せてもらえるかな?ああ、大丈夫、胸の下のあたりまで着ている患者服をまくるだけでいいから」
涼子はちょっと恥ずかしがった。
(大体なんで私の周りをこんなに多くの人が取り囲んでるの?あ、お母さん、お父さん、…健司まで!も〜なんで家族全員いるの〜?)
勿論先生以外にも、涼子の周りにはまだ看護婦たちと涼子の家族がいた。でも先生以外の人間は、まだ目の前の出来事を把握できていなかった。いや、信じられていなかったのだ。みんな微動だにせず、その場につったってた。
涼子はベットから体を起こし、ゆっくり服をまくり始めた。それを見て、その場にいた一同は更に目の前の光景を疑った。たったさっきまで涼子のわき腹にあった痛々しい内出血の痕が完全に消えていたのだ。大きさからして、幅20cm、長さ30cmはあったと思われる、どす黒い赤と青の模様がきれいすっきり消えていた。

びっくり、10年ぶりにこれの続き書いてます→こちらにどうぞ。

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