第三話

一瞬にして涼子の視界が真っ白になった。バイクのライトだ。涼子の左側から、かなりのスピードを出していたバイクが丁度涼子が通って来た道に曲がろうとしていたのだ。考え事をしていた涼子は十字路に出る時に周りを見ていなかった。
よく、命が危ない瞬間、人間には何もかもがスローモーションに映って見えると言うが、まさにその状態だった。その出来事はほんの数秒で起きたことだったはずなのに、涼子には大変長く感じられた。
バイクの若い運転手は、いきなり十字路に出てきた涼子に驚き、なんとか避けようと努力するが、二人の距離が近すぎた。しかも、バイクに乗り慣れた彼は普通の人以上のスピードで角を曲がろうとしていたのだ。右にくねり、左にくねるが、スピードのせいで思うようにバイクをコントロールできない。涼子は衝突する直前、その小刻みに蛇行してしまっているバイクの運転手と目が合った気がした。勿論、彼のヘルメットは真っ黒で、涼子から彼の目など見えるはずもないのだが。衝突は一瞬すぎて痛みも感じなかった。ただ強くどこかを思いっきり叩かれたような感触の後に、涼子は次の瞬間、上向きで宙に舞っていた。涼子の目に空の景色がゆっくり流れる。北極星を見つけたその時、ドサっという音とともに目の前が真っ暗なった。

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