「ロシエリナ国のリリネットですわ」
「ロ、ロシエリナ?私はロシエリナに入ったのか」
女の割には比較的声の低めのその女性は、驚いたような、少し口が引きつったような、微妙な顔をしました。

落してしまったことに対しては、一度状況を把握した後ではさほど驚いていません。
その女性が再び口を開けようとすると、リリネットが彼女の言葉をさえぎるかのようにまた話しかけます。
「あら、あなた、腕のところを怪我しているみたい。さぁ、私の部屋にいらっしゃい。手当てをしてあげましょう」
リリネットにしては異様なやさしさです。それを聞いてロ・ジャンは、つい言ってしまいました。
「リ、リネット様がお手当てできると…」
「あら、失礼ね、私は看護法を一通り習っているのよ!」
パイロットの女性は、リリネットの隣にいたロ・ジャンに気付き、一瞬息を呑んだように見えました。そう見えただけかもしれません。
女性が飛行機から降りるとすぐに、リリネットはシリムスとロ・ジャンに指示を出します。 「シリムス、このことは暫く口外禁止よ。彼女に迷惑がかかるかもしれないわ。ロ・ジャン、急いでその飛行機を草むらに隠して。誰にも見つけられないように」
それを聞いたシリムスが驚いて言います。
「しかし、リリネット様。これは隠すことでは…」
「シリムス、私が言った通りにしなさい。さぁ、パイロットさん、こちらに来て」
リリネットは女性の腕を取って、即座に森から消えていきました。

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