その頃リリネットは、誰にも見つからないようにパイロットの女性を自分の部屋に連れてきました。部屋のソファに座り、女性に操縦服の袖をまくらせました。観察眼の鋭いリリネットは、彼女の赤い操縦服の右袖の一部が血で染まっていることに気付いたのです。包帯を巻きながらリリネットが聞きました。
「あなた、お名前は?」
「シエラよ」
「シエラね。あなた入国証持ってるの?」
「えぇ、持ってるわ」

「それなら、おかしいわね。あなた、今ロシエリナ国は、徒歩、自転車、自動車、その他認められている公共の乗り物以外での入国は禁止されていることをご存知でないの?つまり飛行機での入国は罪なのよ」
突然のリリネットの問いただしに、シエラという女性は一瞬驚いてしまいました。
「…え、でも私は、飛行機が故障して、上手く操縦が利かなくてロシエリナに入ってしまったのだから、事故じゃ…」
「シエラさん、私の家はロシエリナ国の中心部にあるのよ。国境から程遠いこの地域まで、故障した飛行機が偶然入ってしまうわけないでしょう。つまりあなたは意図的に入国しようとしたんだわ」
「あ、あなたは私を突き出すつもりなの??」
「いいえ、取引をしたいの。この国の刑罰は意外と重いから、多分あなたにとっては私の条件の方がいいと思うわ。聞いていただけるかしら?」

inserted by FC2 system