外国語習得法講座 その4
文法の必要性
3. 私の経験
私は自分が外国語を学習していく中で、
「一番最初に文法を集中して勉強すること」
がいかに有効な方法かを実感しました。中学・高校の英語の授業があまり英語を身につけるのに効果的でないのは、ゆっくりやり過ぎているからだと思います。ゆっくり過ぎて、次の文法を学ぶ頃には、今まで学んできた文法を忘れ始めてしまうからです。だから文法は短期集中で最初にちゃんと身につけ、しっかりとその言葉の土台を作っておくべきなのです。逆に、文法は短期集中でないと、なかなか全部覚えるのは難しいのではないでしょうか。もし短期間に集中して勉強すれば、動詞の活用など、色々な時制の違いを忘れる前に比較して覚えることができ、全文法を「塊」として頭に記憶させておくことができるのです。ここでは、私がどう文法を学んだか、私の体験談を書きたいと思います。ここでも、義務教育で普通に学んだ英語の例では他の人とあまり差異がないため、フランス語を例に挙げます。
先にも述べた通り、私は初め、フランス語の文法を1年間で習得するのは絶対無理だと思っていました。なぜなら英語は少なくとも3年以上は一通りの文法を学ぶのにかかったからです。しかし実際は違いました。
文法とは、短期集中で学べば1年間で大体習得できるもの
なのです。私は前章で述べた通り、ある時期に集中して文法をちゃんと勉強したおかげで、約1年でフランス語文法の大筋が習得できたのです。舛添要一も『外国語をどう学んだか』の中で、
「文法は、六ヶ月も学べばマスターできる」(現代新書編集部編1992,p81)
と述べています。
しかしながら、その文法学習にもコツがあります。あまり考えずに文法書をただひたすら読んでいるだけでは、その人は文法書の内容を全て覚えられるとは思えません。そこで私は、文法を学ぶ時は「段階」を踏むことにしています。
@ | まず最初に、その言葉の超初歩的な入門書で勉強して、そこで文法を大まかに一通り学習し、その言葉の基本を頭に叩き込む。 |
A | そしてその次は、もう少し高度な中級の文法書で学習し、その言語の90%の文法を覚える。 |
B | そして最後に、自分の語学力に磨きをかけるために上級の文法書で勉強する。 |
なぜいちいち段階を踏むかというと、いきなり難しい文法書をやっても、理解できなくて途中で嫌になってしまうし、ずっと簡単な文法書だけで学習していても、その簡単な文法書だけではカバーできない文法事項が山ほど出てきて物足りなくなるからです。
自分の能力に合わせて、文法書も変えていかなければならない
のです。また、文法を学習する際、出来るだけ練習問題集などでたくさん文法問題を練習するのがいいと思います。私が短期集中で1000ページの問題集を解いたように、問題集で練習すれば、文法書の内容を自分で習得できたかどうか確かめられ、そして、より文法を自分のものに出来るからです。
その文法学習で重要なポイントがあります。それは、私の学習法のように、
「文法書に限らず、語学に関する本は常に複数買うこと」
です。私はフランス語関連の本(文法書・問題集等)は数十冊持っています。もちろん、そこまで買う必要もありませんが、もし1冊しか持っていなかったら、行き詰まった時すぐに学習をやめてしまう危険性があるからです。複数の本を買えば、ある本では分かりにくかった文法が、違う本では理解出来ることがよくあるので、その危険性を回避することができます。また、自分が買った文法書が「どうも自分と合わない、理解しにくい」と感じたら、即別の文法書を買うことです。日本には幸運なことに、外国語の参考書は星の数ほどあります。分かりにくい文法書のために、大変苦労して自分の時間が失われてしまったら勿体無いです。それだけならまだしも、その外国語への関心さえ削がれてしまったら本末転倒です。お金はかかるけれど、僅か数千円でその外国語が習得できるチャンスが増えるとしたら、その方がお得ではないでしょうか。ピーター・フランクルも、
「一冊だけではなく、何冊か教科書を使って勉強しよう」(フランクル1999,p.24)
と述べています。彼もまた、複数の教科書を使うことによって、自分が一度勉強した単語に違った形で出会え、いい気分になってもっとやる気が出ると述べているのです。外国語を学習する際には、参考書を複数買うことを、私は強くお勧めします。
ここで、私の文法学習に関するもう1つのコツを述べておきたいと思います。それは、
文法に対して「なぜ?」「どうして?」とあまり疑問を持たないこと
です。文法は「それはそういうものだ」というように素直に受け入れて、全て丸暗記するぐらいの気持ちがいいと思うのです。
例えば、日本語を学習している外国人に、「なぜ、ここは「が」じゃなくて、「は」を使うのか?」と聞かれたとしても、あなたはどうせ「それは…この文で「が」を使ったらおかしいからだ」というような簡単な答えしかしてあげられないでしょう。なぜならその文法の決まりごとは、あなたにとってはごく自然に使い分けられる当たり前のことで、今まで「なぜそうなるのか」考えたこともなかったことだからです。
このように文法は、既に出来上がったもので、その言語を話している人には極めて自然の法則なのです。それに対して今ごろ「この文法はなぜこうなるのか分からない」と疑問を持ったところで、それはあまり意味のないことです。それなら最初から素直にその文法を受け入れ、丸暗記した方が効率がいいのではないでしょうか。言語学者になりたい人なら、その疑問を追及すべきですが、普通にその言語を習得するためだけなら、
文法事項は素直に受け入れて丸暗記するに限ります。
このように私は、外国語の文法を最初にしっかり学んだおかげで、その後フランス語がよく理解できるようになり、その後のどんな文章や練習問題にも応用が利くようになりました。
文法の土台がしっかり築き上げられていれば、文章読解力が伸びるのはもちろんのこと、会話にしても、文法をしっかり勉強して土台ができている人とできていない人では、話せる内容、スピードは驚くほどに違います。リスニングにしても、最初に文法をしっかり学んでいれば、たとえ聞き取れなかったとしても、文法の知識を利用してなんとか予想をたてたりすることができるようになるものなのです。だから、
外国語学習において「文法学習」こそが全ての基本であり、最も重要なことなのです。
その4「4. 真の文法のあり方」へ
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