外国語習得法講座 その5
インプットの重要性―多読・多聴の効果
4. 私の経験
さてここでは、自分が外国語を学習した際の多読・多聴に関する私の経験を書いてみたいと思います。
「多読」に関しては、まず私の英語の経験を述べたいと思います。私は高校2年の時に1年間アメリカに留学しましたが、その時一番大変だった授業は「英語(つまり日本での国語)」の授業です。アメリカの英語の授業は、当然日本の授業のように英語の文法について学んでいるわけではなく、本を読み、それを読解することに重点が置かれています。日本の国語と違うところは、読まされる文の量の違いです。
日本では、主に国語の教科書を使って、どんなに長い文章だとしても数十ページに渡る程度のものです。しかしアメリカの英語の授業では、教科書とは別にサイドリーダーとして、よく本1冊を丸々読まされるのです。ある日、本を一冊ぽんと渡され、「明日までに20ページまで読んできて、明日内容についてみんなで話し合いましょう」と言われてしまうのです。アメリカの授業は半年間、月曜日から金曜日まで毎日同じ時間割で行うため、毎日英語の授業があります。つまり、その日から毎日20ページずつ読んでこなくてはならなくなってしまったのです。日本でも英語の本を読んだことがあったとはいえ、毎日20ページも読んできたわけではなりません。私はその宿題を終わらせるために、毎日家に帰ったら数時間を費やさなくてはなりませんでした。
しかし、最初は大変時間がかかっていたその宿題も、日が経つにつれてどんどん読むのが早くなってきました。最後の方では、話の続きが気になってストーリーを楽しめるようになっていたのです。そして1ヶ月後、遂に「アルジャーノンに花束を」の原書を読み終えることができました。その時の感動や充実感は、なかなか味わえないものでした。
私はそのアメリカでの経験のおかげで、英語を読むスピードはかなり速くなりました。例えば、TOEICのreading partの読解問題では、かなりの量の英文を読まなくては問題が解けず、多くの人は読解スピードが遅くてそれらの文章を全部読むことが出来ないといいますが、私はアメリカで本を読んできたおかげで、今ではなんとかその読解問題の全文を読み終えることができるようになってきました。やはり、アメリカでしっかり読書の練習をしていたおかげで、ある程度英語が自分の中に内在化され、文章を力まずに読めるようになったのだと思います。
フランス語を学ぶ際にも、英語の時の経験を活かして出来るだけ多くの本を読むように心がけました。主に私が読んだのは児童書の類のもので、対象年齢は殆どが小学校高学年以下のものでした。当然人間というものは、自分の年齢にあった本を面白いと感じるのですが、外国語を学ぶ時は、いきなり自分の年齢にあった本を読むのはひどく難しいことです。しかし、いくら児童書とはいえ、読んでみるとなかなか面白いものが多いです。フランス語の本では、日本の漫画が翻訳されたものも売っており、日本語の漫画と比較検討しながら読んでみるのもまたいい案だと思います。私はフランスに留学する前に何冊かフランス語の本を読み終えていたおかげで、その能力はフランスで生活する際かなり役に立ちました。本を読むことことによって、フランス語を自分の中に大量にインプットすることができ、リーディングの力だけではなくフランス語の全体の能力が上がった実感がありました。
しかしながら、私自身では未だに「多読」の域には達していないと自覚しているので、もっとカトー・ロンブのように本を読まなくてはいけないと考えています。多読をして自分の中に膨大なインプットをしていけば、自分の英語やフランス語の能力ももっと上がるにちがいありません。
「多聴」に関しては、私が英語、フランス語を学習する時に最も力を入れたことです。
まず英語に関してですが、私は高校生の時、アメリカに留学する前に通信教育の教材を利用しながら、一日3時間は英語を聞くように心がけました。当時、通学時間は一日3時間あったので、その間はかならず英語のテープを聞くようにし、休日などは、英語の映画を積極的に見るようにしました。そのおかげで留学に行ってからも、短期間でナチュラルスピードの英語にすぐ耳が慣れてくれました。
フランス語の「多聴」に関しては、二章の「学習は「短期集中」」の「私の経験」に述べた通り、フランス語の朗読テープやCDを積極的に聞くようにしました。その当時は、残念ながらインターネットラジオを聞く環境が整っていなかったので、フランス語のリスニング教材を見つけたらすぐに購入し、毎日必死にフランス語を聞いたのです。その中でもやはり一番聞いたのは、「星の王子さま」の朗読CDです。このCDは今まで何回聞いたか分かりません。百回以上聞いたのは確かです。二百回近く聞いたのかもしれません。通学中など耳が空いている時はいつでも聞くようにしていたので、終いには飽きてしまうほどでした。「星の王子さま」の本は、原書はなかなか続かなくて日本語訳を読んだだけでしたが、CDを繰り返し聴き続けたのがよかったのか、内容や言っていることをCDに合わせて一緒に言えるようになった部分が何箇所もあります。どうやら繰り返し聞きすぎて文章を覚えてしまったようです。この練習のおかげで、
私はフランス語のリズム、強いて言えば「フランス語の脳」を自分の中に作れたと思います。
完全に全文を覚えたわけではありませんが、「星の王子さま」で使われているいくつものフランス語の構文が、頭に入って「内在化」されたようです。自分がフランス語を話している時も、
「ん、フランス人はこんな言い方しないな、フランス人ならこういうだろう」
ということが自然に分かることが多くなりました。私がフランス語を喋っている時は殆ど日本語を仲介しません。これも「星の王子さま」のCDを何十回も何十回も繰り返して聞き続けたからだと思います。
これが、私が「多聴」を勧める理由です。精聴だけしていては、決してその言語のリズムをつかむことはできないし、「その言語の脳」が自分の中に作られることはないでしょう。
3章の「文法の必要性」にも述べた通り、私たちが最終的に目指さなければならないのは、その言語そのものを自分の中に内在化する「言語の内在化」です。そのためにはたくさんのインプット(多読・多聴)を自分の中にすることが、遠回りのようで一番の近道です。人間は、自分の中にないことは決して書いたり喋ったりすることができません。だから、いかに自分の中にその言語を「インプット」するかが一番大切なポイントなのです。
その6「1. インプットの次はアウトプット」へ
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