外国語習得法講座 その5
インプットの重要性―多読・多聴の効果
1. インプットの重要性
私が今回読んできた参考文献の中で、かなり多くの人々が多読・多聴を勧めています。やはり、たとえ文法書を完全にマスターしたとしても、それだけではその言語を習得できたとは言えません。その時点ではまだ文法が自分の中に内在化されていない状態だからです。一度文法を習得したら、今度はできるだけその学んでいる言語に触れる機会を増やす努力をしなくてはなりません。その言語により多く、長い時間触れることによって、文法が、更にはその言語自体が自分の中に内在化し始めるのです。私はここでは、それらの言語に触れる機会全般のことを「インプット」と総称したいと思います。
前章で、大人と子供(乳児)では、言語の習得の仕方が違うと説明しました。しかし、大人も子供(乳児)も根本的なところは同じです。
人間は言語を習得する際、まず始めに膨大なインプットから始まるのです。
乳児は、平均1年前後くらいは言葉らしき言葉を発しません。しかし乳児はその間いくら言葉を発さないからと言って、何もしていないわけではないのです。乳児はその1年間の間に、周りの大人が喋っている膨大な量の言葉を、意味が全部分からなくとも、しっかり自分にインプットしているのです。そして時期が来たら、今まで自分の中にインプットしてきたものを土台に喋り始めます。このことに関しては、カトー・ロンブもこのように述べています。
「面白いことに、模倣力の形成には、能動的発話はまったく不要なのです。幼児期には、耳と発話器官にその音声の再生能力を植えつけるのに、母国語の音声をくり返し聞くだけで、十分なのです。」(ロンブ1981,p.229)
そしてその現象は、大人が外国語を習得する際にも同じだと私は考えます。やはり大人でも、言語を習得する際には膨大な「インプット」を必要とするのです。例えば、今まで1冊しかその言語で書かれた本を読んでない人と、50冊読んだ人とでは語学力は当然違います。また、週に30分しかその言語を聞かない人と、週の殆どをその外国語を聞いて過ごす人とでは、その言語の能力は雲泥の差でしょう。この例が示す通り、外国語を習得する際には
「いかにその人が自分の中にその言語をインプットしたか」
が重要になってくると思います。外国語習得に大切なのは、アウトプットより、むしろインプットなのです。自分がインプットした情報が多ければ多いほど、その言語の文法が、更には言語そのものが、その人の頭の中に「内在化」されていき、語学力が高くなるのです。そこでこの章では、そのインプットの方法として「多読」「多聴」について取り上げてみたいと思います。
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